何を告げたところで、何もかもが本当に今さらだ。 それでも、言ってやらずにはいられなかった。 だって、おたがいに最後まで勘違いしたままだなんて、あんまりにも悲しすぎるじゃないか。 だから……ただ、本当のことを伝えてやりたかったんだ。 「……ふざけるのもいい加減になさって!」 ヒステリックに叫んだ少女に、忍耐強く俺は繰りかえした。 「俺はふざけてなんかない。あいつは、セレスのことを気にかけてたよ。大切な妹だって。なんとかしてやりたいって」 ゼロスの死を知らされ倒れたという彼女は、淡い色の寝衣のまま、起こした上体を寝台の背もたれにあずけていた。いまや、それすらつらそうな青白い顔色をして、血の気の引いた白い指で掛布をにぎりしめる。 「わたくしは、信じませんわ……! 今になって、そんな戯れ言……聞きたくもありません」 拒絶する声は、おびえ、ふるえていた。ゼロスよりうすい色の赤毛を揺らして、弱々しく首を振る。 俺は、かまわずに続けた。 「ウソじゃない。その証拠に、ゼロスは最期に言ったんだ。自分が死ねば、セレスを外に出してやれる。憎い自分が消えて、自由になれて、きっとセレスも喜んでくれるって」 ゼロスよりほんの少し淡い色のひとみが、はりさけそうに見開かれた。顔色がますます悪くなる。 「……そんな……そんな、わたくしは……そんなつもりじゃ、お兄さま」 いつもこわばったまなざしととがった声でゼロスを傷つけてきた少女の顔が、俺の言葉を――己が死ねば妹は幸福になるのだと、ゼロスが心底そう信じたがために死んだのだという説明を、ようやっと受け入れ、絶望に染まる。 そこではじめて俺は、セレスに『本当のこと』を告げようと思ったのが、死んだゼロスのためでも、ましてや彼女のためでもなかったことに気がついた。 ああ、俺はただ――大声でわめいて、責めたてたかったんだ。愛されていて、愛したくせに、どうしてあいつを引き戻してはくれなかったって。 ゼロスの背を最後に突き飛ばしたのは、他でもない俺自身のこの両腕だと、俺が一番よくわかっていたはずなのに。 手の中の輝石をにぎりしめた。 ゼロスが眠る冷たい鉱物にはひび一つない。セレスに会わせてやろうと思って、でもいまは、どうか聞こえていなければいいと思う。 あいつの大切な妹の、命ごとこぼれ落ちていくような泣き声が。 セレスを救ったのだという思いこみはあいつにとって、たったひとつの救いだった。 山ほどの嘘と誤解とごまかしの中で、それだけは、本当に本当のことだったのだから。 Fin. |